2018年09月06日

『娘役』(中山可穂)

中山可穂さんの『娘役』を読みました。前に『男役』という小説も書いておられましたが、それと同じで宝塚をテーマにした小説です。『男役』の詳細は覚えていないんだけれど、そっちより、今度の方がぐんと面白いという印象です。夕方読み始めて、途中食事や他の用事はしましたがそれを除くと、一気に読みました。

主人公は二人。最初に登場するのは片桐という若いヤクザ・片桐。組の鉄砲玉となって敵対する組のボスの命を狙います。子分も引き連れず一人で行動を始めたボスを追ってやってきたのがなんと宝塚大劇場。ダフ屋からチケットを買い、さらに、芝居が終わって休憩の時間中に札束で目標のすぐ後ろの座席を確保したのですが、レビューが始まって、あるとんでもないこと〜片桐の人生を変えてしまうような〜が起こり(読んでください☆)片桐と若い女優とがつながるんです。読んでいて、瞬間、一体何が起きたのかと思いましたよ。

小説では片桐の話と、その女優・野火ほたるの話が交互に語られます。どちらも面白いです。

それにしても、中山可穂さんの小説を読んでこんなに吹きだしたのは初めてかもしれません。もうおかしくって(特に片桐の話)。片桐がつけ狙った男は組員には秘密ですが宝塚の大ファン。そして片桐も宝塚にはまってしまうんです。ファンの気持ちがすごくうまく描かれています。

宝塚の生の舞台は実はまだ一度しか観ていませんが、宝塚の舞台は大好きです。似たようなのだと、ずっと昔SKDの舞台を観ました。これも楽しかった。特に男役にはまりました。だけど今回の『娘役』を読んで、男役の魅力を引き出すのは娘役の女優さんの力なんだなということを認識しました。娘役にはあまり関心がありませんでしたが、もし次のチャンスがあればそっちにも目を向けたいと思います。

宝塚のコアなファンの方はこの本を読んでどんな風に思われるのか……ということも気になります。また、宝塚を知らない方がこれを読んで観てみようかな……という気になってくれるとうれしいです。

で、読みながら思ったんですけど、どなたか大衆演劇を素材として面白い小説を書いてくれないでしょうか。大衆演劇がでてくる作品というと、思いつくのは、平安寿子(たいら・あすこ)さんの『グッドラックららばい 』ぐらいかな……。普通の主婦が家出して大衆演劇の劇団についていってしまう話です。ただ残念なのは大衆演劇の話はそれほど多くありません。もっといっぱい大衆演劇を扱っている小説はないもんでしょうか……。

そんなことを考えて検索してみると……案外ありますね。紙の本で出版されているものもあるし、ネットの投稿サイトで自由に読めるものもあります。

googleで検索 大衆演劇+小説

例えば、摩天楼・華さんの掌編群は以下のような場所で読めます:
https://kakuyomu.jp/users/yumemaboroshi
https://estar.jp/_crea_u?c=U2FsdGVkX18xXOTc5MDkyNru9VOIwtek9mxPUfzKlORxS01


中村桃子さんの「桃花舞台」の記事も、短編小説のように楽しむことができますね。役者さんのことがメインですが。
https://momo1122.at.webry.info/

映画では、『戦争を知らない子供たち』という1973年の作品で、家出した少年少女たちがドサまわりの劇団にお世話になる話がでてきます。ちょっとびっくり。でも今の大衆演劇とはかけ離れた世界でした。
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2018年07月26日

北海タイムス物語

帰りの新幹線の中では、長男から借りた『北海タイムス物語』を読みました。増田俊也(ますだとしなり)の傑作『七帝柔道記』の続編とも言える作品です。

『七帝柔道記』の記事はこちら:
http://flim-flam.sblo.jp/article/63999601.html

『北海タイムス』というのは実在した北海道の地方紙(今はもうありません)。増田さんが北大を中退して勤務した新聞社です。今回の主人公は、早稲田の教育学部を出て、新聞記者をめざす青年・野々村です。他の新聞社に皆落とされてしまい、やっとやとってくれたのがこの新聞社でした。

「同期」(といっていいのか微妙なのですが)に松田という北大を中退した男が出てきますが、これが増田さんですね(笑)。まあ、無茶苦茶な男。この小説は、主人公が入社してから数ヶ月の古都を描く青春小説です。ともかく登場人物が面白いです。そして、この青年の成長していく姿(最初は全然成長しないんですが)はなかなかの感動モノ。最後あたりは泣きました。

ヒロイン的な浦さんもとても印象に残る素敵な女性でした。読んでいてぼくも好きになってしまいました。まだ当分文庫にはならないでしょうが、図書館でみつけたらぜひ読んでみてください。

新潮社のページ
http://www.shinchosha.co.jp/book/330073/

※最近読んだ本で面白かったのは、これと入れ替わりに岡山から東京へ持っていった『ののはな通信』(三浦しをん)。各紙の書評で評判がよかったので買いましたが、これには驚きました。全編、手紙、そしてメールのやりとりだけでできているんです。胸がときめきました。こちらもオススメです。
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2018年07月02日

愚者の毒

『愚者の毒』は、6月の最初に新聞の書評ですごく褒めてあったので kindle版を購入。山口との往復の新幹線で読んでしまいました。たしかに面白かったです。

ミステリーとしての仕掛けは最初からみえみえでしたが、それはどうでもよいこと。語り手は生年月日が全く同じ二人の女性。その二人が1985年の春、35歳の時、職安で出会うのです。第一章の語り手は葉子。借金苦で心中した妹夫婦の残した幼子・達也を引き取って一生懸命育てているんですが、発達障害があってとても苦労しているんです、妹夫婦の借金まで背負って。心を寄せてしまいますよね〜。そんな彼女と友だちになったのが、職安でであった同じ生年月日の希美。彼女は葉子に住み込みの家政婦の仕事を紹介してくれるのでした。その家には昔理科の教師をしていた「先生」とその息子(亡くなった奥さんの前夫との子)が静かに暮らしていて、葉子と達也は幸せな暮らしを始めるんです。もちろん希美もときどき遊びに来てくれて仲のいい友だちづきあいが続きます。読んでいてとても幸せになります。しかし……。

葉子が語る第一章が終わると、次は希美が彼女の少女時代を語ります。舞台は九州の廃鉱の集落。第一章に出てくる明るい希美とは全くイメージが変わってしまいます。とても辛い少女時代……。そして悪役が登場するんです。面白くなると言うより、ちょっとしんどくなります(読んだ順は逆になりますが、最近読んだ戯曲『パーマ屋スミレ』でも九州の炭鉱での理不尽な状況の中で生きていく人、死んでいく人の切ない話が描かれていました)。希美と幼馴染のユウ(第3の主要人物)をだれもが応援したくなってしまいます。しかし二人は已むに已まれぬ事情からある犯罪に手を染めてしまいます……

第三章ではの内容はご自分でお読みください。

登場人物たちの人生がどう絡み合っていったのか……読み終えて切ないものが残ります。おススメです。
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2018年06月30日

苦い銭

6月30日(土)、午後はやはりシネマクレール丸の内で『苦い銭』を見てきました。13:15から予告篇が始まり、映画を見終えたのが16:10!!! ほとんど3時間座っていたので、お尻が痛くなってしまいました(苦い笑)。

公式サイト
http://www.moviola.jp/nigai-zeni/


シネマジャーナルのミッキーさんの解説がほんとうにその通りなのでそちらをぜひご覧ください。
ぼくはこの作品紹介を見て、絶対この映画を観ようと思いました。
http://mikki-eigazanmai.seesaa.net/article/456497847.html

出てくる人がほとんどみなチャーミング。普通の人なんだろうけれど、観ていてとても愛おしい! 例外はあります。ひとりは夫婦で出稼ぎに来たものの喧嘩ばかりしている人があって、男がかなり暴力を振るうんです。それも建物の外から硝子越しにカメラにおさめていたり、男が外に出てきたら写していたりするんで、これってドキュメンタリーじゃ無くてドラマだっけ……と思ったりしました。もう、この夫婦は終わりだな……と思ったんですが……最後の方でまた出てくるのでそれまでお待ちください。もうひとり危険な感じだったのは、辞めていく男が好きな女性(彼女は相手にもしない)のそばを、大きな裁ちバサミをもってうろうろするシーンがあるんです。なにかするんじゃないかとドキドキしました。これも胸が痛むシーンの一つ。

ともかく、仕事をしているところ(そして仕事をしていないところも・笑)延々と撮し続けた映画です。繰り返しますが、長いです。覚悟してご覧ください。気軽にはオススメできないかも。シネマクレールでは7月6日までの上映です。

来週末からの映画では『長江 愛の詩』『四月の永い夢』が面白そう。
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2018年02月10日

石牟礼道子さん、逝去

今日、2018年2月10日、石牟礼道子さんが亡くなられました。

大好きな作家でした。一番好きな作品はやはり『十六夜橋』です。現物なら古本でしか買えませんが、kindle等でならすぐ買って読むことができます。ぼくは最初単行本を買いましたが、のちにhontoで電子版を買い、さらに kindle 版も買いました。

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このブログには、石牟礼さんのお名前の出てくる記事がいくつかあります。そのリストを載せておきます。本当に名前だけのものもあります。

2011年9月24日「十六夜橋」
http://flim-flam.sblo.jp/article/48146642.html

2011年9月25日「椿の海の記」
http://flim-flam.sblo.jp/article/48163359.html

2012年3月17日「石牟礼道子対談集 魂の言葉を紡ぐ」
http://flim-flam.sblo.jp/article/54477793.html

2012年3月31日「桜つながり」
http://flim-flam.sblo.jp/article/54749307.html

2013年1月5日「恋に至る病」
http://flim-flam.sblo.jp/article/61247899.html

2013年7月7日「これから読むもの、観るもの」
http://flim-flam.sblo.jp/article/70650131.html

2015年4月4日「岡山散策」
http://flim-flam.sblo.jp/article/116180590.html

上の記事群に出てくる本以外にも、ずいぶん石牟礼さんの本を購入しています。『苦海浄土』は実は第一部しか読んでいません。他の本は読んでしまったのですが……。第一部には水俣病がおきる前の暮らしも描かれていて、そのあまりの幸福感に涙が出ました。オススメです。

今夜はまた『十六夜橋』を読んでいます。石牟礼さんのことを思いながら眠ろうと思います。

※ ネット上の石牟礼さん関連記事等へのリンク集をこの下に作ります。すこしずつ増やします。

●石牟礼道子(渡辺京二)
http://kyouiku.higo.ed.jp/page2022/002/005/page2332.html

●追悼 石牟礼道子(illegal function call in 1980s)
http://dk4130523.hatenablog.com/entry/2018/02/10/071937

●両陛下はなぜ「水俣病胎児性患者」と面会したか 故・石牟礼道子さんと美智子皇后の「秘話」
https://www.j-cast.com/2018/02/10320989.html?p=all

●石牟礼道子『苦海浄土』刊行に寄せて(動画)
https://youtu.be/n7VB2U4kA1M

●追悼 − 石牟礼道子(ART iT)(亜 真里男)
http://www.art-it.asia/u/sfztpm/G7zoTDMQP0qOeLJ8npkA

●石牟礼道子さんを悼む(辺見庸) 〈累〉の悲哀 紡いだ文学 (日経会員専用記事)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO26791990Q8A210C1BC8000/
石牟礼さんは、人を現前するただ一個のものとはみない。「むかしむかしのものたちが、幾代にも重なり合って生まれ、ひとりの顔になる」(『十六夜橋』)ととらえ、その〈かさなり〉に、しばしば〈累〉という漢字をあてた。〈累〉とは、このましくないかかわりのことである。いつかの手紙では自作について「悲哀だけで成り立っている」と書き、けっきょくはそのように作品をけんめいに彫琢(ちょうたく)してしまうことの、〈累〉の悲しみから逃れえないさだめをほのめかしている。わたしの生き方をも〈累〉の窓からごらんになっていたのではないだろうか。


●「苦海浄土」石牟礼道子さん死去 〜 患者の魂を言葉に
https://shanti-phula.net/ja/social/blog/?p=152176

●日本人は何をめざしてきたのか 知の巨人たち 第6回 石牟礼道子(動画)
https://youtu.be/UA35VnzZ-3Y

●水俣病"真の救済"はあるのか〜石牟礼道子が語る〜
http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3234/1.html
https://youtu.be/aYpRG6T-AVo (動画)

●石牟礼大学「いま石牟礼道子を読む」
https://youtu.be/DXYzOk7aebA
https://wan.or.jp/article/show/4133

●石牟礼道子さんの思い出(一樹の蔭、一河の流れ)
http://bronte.at.webry.info/201802/article_1.html
方言丸出しに綴られる言葉の数々は、読み終えたわたしに何としても水俣へ行って、自分の目で確かめずにはいられない、そんな気持を起こさせたのです。ある日、当時の国鉄久留米駅から列車に乗り、鹿児島本線を南下して水俣で下車。駅前からまっすぐ続く道の先にはチッソの工場が見え、雨の中をを歩いていくと工場正門横にテント小屋がありました。ここで患者さんや支援者などが、座り込みを続けていることを知っていたのです。

テントに着くと中は思ったより広くて数人がいましたが、出入り自由らしくわたしに気を使う人はありません。1時間ほどして石牟礼道子さんが顔を出され、その後、テントにいた胎児性水俣病患者の少年に、チッソ工場の排水口や湾ぞいの集落などを案内してもらいました。言葉も歩き方も不自由な少年でしたが、臆することなく自分の不安や希望などを熱心に話してくれたのでした。


●石牟礼道子 はにかみの国(松岡正剛の千夜千冊)
http://1000ya.isis.ne.jp/0985.html
 石牟礼は『苦海浄土』について、「白状すればこの作品は、誰よりも自分自身に語り聞かせる、浄瑠璃のごときもの、である」と書いている。
 まさにそうなのだ。そう言われて、気がついた。ぼくも、いま思い出しても、『苦海浄土』は長塚節の『土』や住井すゑの『橋のない川』と似た作品のようには読まなかったのだ。そこから説経節や浄瑠璃に近い調べを聞いたのだった。が、そのときはそれが幻聴のように思えた。
 それが幻聴ではなかったことは、『十六夜橋』(径書房・ちくま文庫)を読んだときにわかった。この作品は、不知火の海辺の土木事業家の一家と、そこにまつわる3代にわたる女性たちや石工や船頭たちに流れ去った出来事が夢を見るように描かれていて、むしろ幻聴そのものを主題にしているかにも見えるのだが、読めばわかるように、かえってそこにずっしりとした「持ち重り」が輝いていた。それが『苦海浄土』以上に鮮明になっている。


●コラム凡語:石牟礼道子さん(京都新聞)
http://kyoto-np.jp/politics/article/20180214000049
 10日に死去した熊本在住の作家、石牟礼道子(いしむれみちこ)さんの祖母、モカさんは精神を病んでいた。幼少時、祖母に付き添うのは孫娘の役割だった。不知火海のほとりで遊ぶ時も、祖母と一緒だった。

 自伝的作品「椿の海の記」では、「おもかさま」と周囲に呼ばれた祖母との暮らしが描かれる。人々は「おもかさまには荒神さんがついた」と言い、つかれたように孫を連れて歩き回る祖母を受け入れていた。


●石牟礼道子氏と渡辺京二氏 傘寿迎えた2人の作家の共助関係
http://www.news-postseven.com/archives/20110216_12817.html

●石牟礼道子おすすめ作品5選!水俣病を扱った『苦海浄土』など魂に響く5冊
https://honcierge.jp/articles/shelf_story/1466

●〈時の回廊〉石牟礼道子「苦海浄土」 水俣病患者の魂、代弁
http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY201111100196.html
 おととしの夏、倒れて大けがをしたとき、記憶を2カ月半なくしました。幻覚はよく覚えています。千尋の谷に落ちる私の足から、チョウが太古の森へ飛びたったのです。あれは私の命かもしれません。こずえの葉が海風に震え、いい音楽が聞こえました。そう、幻楽四重奏。チョウの私はアコウの木の枝にとまり、幸せでした。そのあたりからこの世に帰ってきました。

 私は天という言葉がいちばん好きです。40年ほど前、水俣病の運動のさなかに、こんな句をつくりました。

 祈るべき天とおもえど天の病む

 天とは宇宙ですが、天と言った方が感情を託せます。あの地震のことも引っくるめて宇宙に異変が起こっています。私のなかで天は、今も病んでいますね。


●梟通信〜ホンの戯言
http://pinhukuro.exblog.jp/tags/石牟礼道子/

●不知火のほとりで(毎日新聞連載 会員用)
https://mainichi.jp/ch150913328i/不知火のほとりで

●石牟礼道子「魂の秘境から」
http://umit2011.pro.tok2.com/isimuremitiko1.html
朝日新聞連載のエッセイ「魂の秘境」や関係資料が読めます。
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2017年12月17日

あしながおじさん

今日、山口までの往復で「あしながおじさん」を読みました。この話を最初に読んだのはいつだったのか覚えていないのですが、ともかくこの話が大好きでした。今、書棚にあるのは古本屋でかった旺文社文庫版(中村佐喜子訳)。今日読んだのは、岩波少年文庫版(谷口由美子訳)をスキャンしてタブレットに取り込んだもの。なんでこんなにいっぱい買ってるのかなあ(笑)。

前回読み直したのは佐野洋子さんの「ふつうがえらい」にはいっている『こんな女の子と暮らしたい』を読んだからでした。佐野洋子さんがはじめてこの本を読んだのは中学一年のとき。とても愉快で楽しい思いをされたそうです。ところが平成になった頃(?)読み返したとき、なんと読みながら大泣きしたんだそうです。どこで泣くのかというと、ジュディがとっても幸せなところで泣くんです。あしながおじさんができる唯一の愛情表現は金もしくはプレゼントを贈ること。なので、その愛の表現が送られてくると、どっと涙が出てしまうんだそうです。そして、佐野さんは、この小説は楽しく明るいジュディの学生生活の向こうにいるあしながおじさんの心理小説なのだ、○十六の男が二十一歳の女の子に手玉にとられてしまったのだと語ります。あしながおじさんはやきもきする立場しか与えられず、来る手紙来る手紙がどんなにスリリングなものであったろうと同情するのです。そしてラストで一番たくさん泣くのでした。佐野さんの文章を読むとこの本を読まずにいられなくなります。

今回、読み直したのは、15日の山陽新聞夕刊・文化エンタメページに、大宮エリーさんという方が『あしながおじさん』を取りあげたエッセイを読んだからです。大宮さんは若いときには何度トライしても投げ出してしまったんだそうです。時を経て大掃除中に見つかったこの本を読み始めて、驚いたのでした。ぐんぐん引き込まれたのでした。ジュディの書く手紙のディーテールのすごさに、これはおしゃべりそのものだ、彼女の手紙は語りかけてくる、こんな手紙を日々もらい続けたらどんなに心が温まるだろう……と書いておられます。

佐野さんが『赤毛のアン』のアンよりも、『若草物語』のジョーよりもジュディが好きだあると書いておられるのと同じで、ぼくもジュディが大好きです。ジュディはとても賢く、しかもユーモアにあふれる女性です。たとえばある日の手紙の最後の部分を引用してみます(岩波少年文庫版):

日曜日
 きのうこれを出すのを忘れてしまいました。ですから、腹の立ったことを付けくわえさせてください。今朝、礼拝のとき、教会の監督さまがみえて、その方がなんておっしゃったと思います?
「聖書に語られた、わたしたちへのもっとも慈悲深い約束のことばとは、『貧しい人々はいつもあなた方といっしょにいる』(「マタイによる福音書」より)ということばです。貧しい人々は、わたしたちをあわれみ深くするために、存在するのです。」
 考えてみてください、これじゃまるで貧しい人々が、有益な家畜のようじゃありませんか。もしあたしがこんなにすばらしい女性に成長していなかったら、きっと礼拝のあと、その方のところへ行って、自分の気持ちをぶちまけていたでしょう。


※上では「マタイによる福音書」とありますが、旺文社文庫版では「新約聖書マルコによる福音書十四章7節。『貧しい人たちはいつもあなたがたといっしょにいるから、したいときにはいつでも、よいことをしてやれる』」となっています。どっちが正しいのかなと思って調べたら、両方に出ていました。Wikipediaって便利ですね〜。

マタイによる福音書 >> 26:11
マルコによる福音書 >> 14:7

※そんなに賢い女性なのに、どうしてあしながおじさんの正体が分からないのかと、やきもきしながら読んでしまいました。まあそこがいい所なんですけど。

この本の魅力はジュディの手紙の魅力にもよるのですが、もうひとつ、挿絵もすばらしいです。ウェブスター自身が描いているそうです。「へたうま」の元祖です。で、この挿絵にはところどころにキャプションがついているんです(原作ではもちろん英語)。上の2つの日本語訳を比べてみると、そこのところの訳は独自のものを使っているんですね(当然かも)。例えば、手紙の中で最初に出てくるジュディの絵でくらべてみます。

英語版はこちら(新潮文庫版はこれをそのまま?)
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なんだかあまり見たことのない表現が使われていますね。Rear Elevation とか Front Elevation って……どうも製図で使う用語のようです。背面図と正面図。ジュディは幾何の講義をとっていて、円柱とか円錐を習ったようですから、そこで出てきたことばなのでしょう。早速使うところが楽しいじゃないですか。

岩波少年文庫版ではここは「孤児の図 うしろ向き 前向き」、旺文社文庫版では「孤児の像 後ろ向きの図 正面図」となっています。岩波の方はやや子ども向けかも。

何度でも読み返したい本です。
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2017年08月06日

傍らにいた人

土曜日の日経に詩歌教養のページというのがあって、俳句や短歌のとなりに連載ものが載っています。今連載されているのは堀江敏幸さんの「傍らにいた人」。小説の中の主人公ではなくて、脇役に注目した文学紹介になっています。これが面白い☆☆☆ きちんと切り抜いたり記録をとったりしているわけではないので、ネットで集めた情報ですが、これまでの内容をここに載せておきます:

2017年
03/04 (01) 國木田独歩「忘れえぬ人々」 「生の孤立」感じた時 すれ違う
03/11 (02) 安岡章太郎「夕陽の河岸」 死神のごとく現れた黒い影
03/18 (03) 井伏鱒二「鯉」 隠された黒く冷たいもの
03/25 (04) 井伏鱒二「スガレ追ひ」
04/01 (05) マルセル・ムルージ「涙」「エンリコ」 死神に等しい使いの白い影
04/08 (06) 瀧井孝作 「父」 読み手揺さぶる一人目の継母
04/15 (07) 堀江敏幸 瀧井孝作「父」(下) 「私」のなかで生き続ける生母
04/22 (08) 堀江敏幸 佐多稲子「水」 浄化された母を悼む涙
04/29 (09) 内田百 「見送り」 船上で遅刻の奇妙な言い訳
05/06 (10) 堀江敏幸 正宗白鳥「リー兄さん」 死んだ弟を呼び出した女性
05/13 (11) 藤枝静男 「悲しいだけ」 妻の死を悼む酷薄の描写
05/20 (12) 尾崎翠「松林」 少女の気配がもたらす昂奮
05/27 (13) 寺田寅彦 「嵐」 嵐の後に浮かび上がる女性
06/03 (14) 島崎藤村 「海岸」 「娘」に投影される作者の内面
06/10 (15) 芥川龍之介 「微笑」 厠の人となった親友 「久米正雄」
06/17 (16) 谷崎潤一郎「陰翳礼讃」、久生十蘭「昆虫図」 不吉を暗示する小さな虫
06/24 (17) 日影丈吉「かむなぎうた」 想いを寄せる少女の幻覚
07/01 (18) 梅崎春生「小さな町にて」 子を宿した女性が導く悟り
07/08 (19) 小山清「小さな町」 焼失した町と人々の影拾う
07/15 (20) シャルル=ルイ・フィリップ 「小さき町にて」 庶民の視線で幸福考える
07/22 (21) シャルル=ルイ・フィリップ 「小さき町にて」 罪深い人間に注文した木靴
07/29 (22) 野呂邦暢 「小さな町にて」
08/05 (23) 野呂邦暢「失われた兵士たち―戦争文学試論―」 兵士たちが残した言葉拾う
[以下毎週追加します]
08/12 (24) 安岡章太郎「遁走」 軍隊のヤル気の正体見抜く
08/19 (25) 田村泰次郎「銃について」 「恋人」介して支え合う男たち
08/26 (26) 小島信夫「小銃」 暗部を見た人のやさしさ
09/02 (27) 長谷川四郎「小さな礼拝堂」 消えない凍てついた真空地帯
09/09 (28) 石原吉郎「サンチョ・パンサの帰郷」 もうひとりの自分の耳鳴り
09/16 (29) 北條民雄「いのちの初夜」 生きのびるという厳しい啓示
09/23 (30) 北條民雄「川端康成との往復書簡」 文豪の励ましに応えた若者
09/30 (31) 川端康成「骨拾ひ」 乾いた自分という他人
10/07 (32) 川端康成「日向」 北に顔を向けなかった祖父
10/14 (33) 川端康成「合掌」 虚の言葉が可能にする真実
10/21 (34) 川端康成「心中」 狂乱を帯びた4通の手紙
10/28 (35) 梶井基次郎「川端康成第四短篇集「心中」を主題とするヴァリエイシヨン」 正しくなぞる幻視のの糸
11/4 (36) 梶井基次郎「闇の絵巻」(上) 川端康成の告白と後悔
11/11 (37) 梶井基次郎「闇の絵巻」(下) 不治の病告げる不吉な響
11/18 (38) 梶井基次郎「檸檬」(上) けっして腐敗しない「塊」
11/25 (39) 梶井基次郎「檸檬」(中) 幻視を準備するための言葉
12/2 (40) 梶井基次郎「檸檬」(下) 覚悟を決めて置いた手玉
12/9 (41) 芥川龍之介「蜜柑」 気鬱な世界を変えた投擲
12/16 (42) 芥川龍之介「蜃気楼」 鈴の音を響かせた妻の言葉
12/23 (43) 志賀直哉「焚火」(上) 芥川を変奏に誘った世界
12/30 (44) 志賀直哉「焚火」(下) 火が消えた後の世界を知る者
2018年
1/6 (45) ジュール・ルナール「フィリップ一家の家風」 飛び火する言葉の薪
1/13 (46) ジュール・ルナール「水甕」 永遠に渇くことのない言葉
1/20 (47) 田中小実昌「ポロポロ」 言葉にしないで伝わる本質
1/27 (48) 田中小実昌「バスの終点」 揺れに身を任せた言葉
2/3 (49) 深沢七郎「みちのくの人形たち」 罪の果てにある光景
2/10 (50) 中野重治「萩のもんかきや」 効率無視の言葉の紋描き
2/17 (51) 小沼丹「揺り椅子」 柿の実に閉じ込めた戦争の影
2/24 (52) 庄野潤三「プールサイド小景」 今揺らす真っ白な魂の手紙
[完結]

気になった作品をamazonで調べるとすごく高い古書しかなかったりしますので、本気で付き合うなら図書館を利用するしかなそうです。でも検索していると関連する文庫本なんかがあったりして、小山清という方の「落穂拾い・犬の生活」(ちくま文庫)を本屋さんに行って購入しました。連載の(18)からずっと「小さな町」シリーズが続いていてるんです。小山清さんの「小さな町」は彼が新聞配達尾していた下谷竜泉寺町のことを描いた作品。ちくま文庫にもその時の話がでてきたりするんです。表題作になっている「落穂拾い」は下谷ではなく武蔵野市に住んでいるという設定。あまり誰とも話をしない主人公(語り手)がいつも戸が開いている古本屋だけには抵抗なく入れて、しかも経営者である若い女性と親しく話せるようになる話は、読後なんだか胸がときめいてくるお話でした。表題作だから解説になにか書いてあるかな……と思って最後の解説を読んだら……ほとんどがこの短編の話でした。それもとてもショッキングな……。解説を読んで泣いた……というのは初めてかも。今これを書いていても胸が痛くなります。作品はそれだけで味わえばいいのでしょうが、それが書かれた状況、そしてその後のことを知るとまた別の感想が得られるのは仕方ないですね。

いい作品集です。もったいないので少しずつ、少しずつ読んでいます。オススメです。

「傍らにいた人」も将来的には単行本になるのでしょう。楽しみです。 
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2016年03月29日

恵比寿のシス書店

恵比寿のシス書店(LIBRAIRIE6)が6周年記念で開催しておられた「6 year exhibition LIBRAIRIE6」展に、3/19(最終日前日)に行ってきました。

先日亡くなられた合田佐和子さんの絵も3点展示されていました。他には、宇野亞喜良さん、四谷シモンさん、金子國義さん、合田ノブヨさん、建石修志さん、など多くの作家の作品がありましたが、いちばん気に入ったのは菅野まり子さんの作品でした。黒地に独特な中世的雰囲気の絵を描かれます。不思議な魅力があります。

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菅野まり子

シス書店では、今年の終わり頃、菅野まり子さんと他の方の2人展か3人展を企画しておられるそうです。ぜひ観に行きたいと思います。

シス書展での過去の個展(菅野まり子 「孤島にて」展 )
http://librairie6.exblog.jp/21230018/

菅野さんの作品も、合田佐和子さんの作品も素敵でしたが、結局古本を2冊購入して帰りました。白水社の「新しい世界の短編」というシリーズの中から第一巻「木立の中の日々」(マルグリット・デュラス)と第三巻「十三の無気味な物語」(ハンス・へニー・ヤーン)です。

「木立〜」のほうは帰りの新幹線でほとんど読んでしまいました。不思議な味わいの面白い短編集でした。表題作「木立の中の日々」は、女友達と同棲している貧乏な男の所に、急に金回りのよくなった母親がやってくる話。かみ合わない会話が絶妙。笑えます。母親と息子の関係というのはほんとにしんどいものですね〜。二つ目の「ボア」には一番ぎょっとしました。ボアというのは動物園にいる大きい蛇です。日曜ごとに若鶏を丸のみし『嚥下』するのを見に行く二人の話。このあともうひとつの『嚥下』が出てくるところがとてもショッキングでおぞましいです。未読の方がほとんどでしょうから、これ以上は書きません。好きな話か?ときかれると答えにためらってしまいますが、ものすごく印象に残る話でした。三番目の「ドダン夫人」はアパートの門番(つまり管理人)であるドダン夫人の話。彼女が住人のゴミ出しにすごくこだわる話です。けっこうおかしい話。最後の「工事現場」はホテルに宿泊している男と女の出会いの話。他の話と違って胸がときめく話です。よかった☆

他の方の感想を探してみました:

アリアドネの部屋
デュラス『木立の中の日々』
http://blogs.yahoo.co.jp/takata_hiroshi_320/23765631.html

晴読雨読ときどき韓国語
『木立の中の日々』(マルグリット・デュラス著、平岡篤頼訳、白水社)
http://nishina.exblog.jp/13186749/

記憶の彼方へ
マルグリット・デュラスの塩漬けキャベツ
http://d.hatena.ne.jp/elmikamino/20111110/p1

流れ去る時間/停滞した瞬間(マルグリット・デュラス)
小川美登里
http://www.gallia.jp/texte/50/50ogawa.pdf

鳥乃声 花乃蜜
マルグリット・デュラスとか
http://cotomin.jugem.jp/?eid=320

近くの方で読んでごらんになりたいかたにはお貸ししますよ。

もう一冊の方は未読です。読んで面白かったら感想を書くことにします。
posted by dunno at 11:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書